バブル崩壊後の日本経済の落ち込みはすごく、東北大震災を機にその弱体化に拍車がかかった。
 
どの業界も同じとは思うが、戦前戦後を通し日本の経済を支えた紡績業の衰退は目を覆うほど。大規模な生産体制は海外の労働賃金の安い国へと吸い込まれるかのように移行していった。東北地方に最新システムを取り入れた中〜大規模工場が無いわけでもないが、機械化されている分ランニングコストは膨大だ。それを補うためには大量生産を前提とする大手クライアントに頼らざるを得ない。
中小クライアントは高齢化した零細企業に一縷の望みを託すが、細かい仕様と低い工賃は職人の生活を圧迫するだけだ。国内生産は3パーセントにすぎないと言う。それを支える父ちゃん母ちゃん爺ちゃん婆ちゃんの三ちゃん経営。脆弱な基盤は何かあるとあっという間に瓦解する。
2013年、2014年前半と立て続けにDINGO存続危機を招いた委託工場の倒産は、そんな国内縫製業の実情が背景にあった。韓国・中国で量産をすればいいじゃないかという声もあったが、ワンサイズ最低100枚からが発注の基本となる。グレートデン型の9.10.11号が各100枚で、合計300枚。どれだけのデンが日本にいると言うのか?
ファッション性を追求するブランドではなく、実用的なウェアやグッズを供給する商店であることがDINGOの基本だ。皆が同じ柄の洋服を着て闊歩する姿など想像もしたくないし、できない。そんな型押し的学生服のような洋服を作るくらいなら。。。辞めた方がいい。
しかし大量に作って大量に消費するのは経済成長目覚ましい時代の事だ。成長が止まればそこから派生するのは生活形態の多様化である。
その多様化は決して大量生産ではカバーできないニッチな職人の世界に繋がるはずだ。100人が100人求めないまでも1人が求めれば成立するそんな職人技があるはずだし、それを探せばいい。
 
常に業界歴数十年というベテラン達の手助けがあって成立してきたDINGOである。パターンナー・ギシギシの引退と縫製会社の提携工場倒産をきっかけにした一人立ち。ゼロからの再スタートとなる。
洗濯負けをしない丈夫な生地に、大型・超大型・希少犬用の豊富な型。それを形にする緻密で頑固な縫製。DINGOの「職人を探せ!プロジェクト」はゴールデンウィーク明けから始まることとなった。
 
小舟で大海に漕ぎ出すかのような無謀さで座礁を繰り返し、船底を補修してはまた漕ぎ出でるそんな毎日。
「無理無理!」「そんなサンプルラインと変わらない枚数はやらないから。」「指示書は?あー、ごめんね。素人さんとは仕事してないから。」
精神的疲労に肉体的疲労が重なり、船底の修理に限界を感じていた頃ふと気づくことがあった。
「職人って・・・もしかして利便性とか情報とかから隔絶された、昔気質な世界?その地域に根付いていたり、集合体があったり・・・もしやもしやだよ。」
それから1週間、リュックに型紙とサンプルを入れ、工業組合を経由して下町を歩き回った。
そしてついに出会えたのである。座礁しかかった小舟を、近海で操業している漁師が不憫に思って曳航してくれたかのような出会い。

戦前から数えると3代目となる社長さんがお兄さんで、専務さんが弟さん。クマさんのように穏やかな二人は生まれ育った墨田区菊川でカットソー専門の縫製工場を営んでいる。
 
「指示書も無いですし、何か専門的な事を聞かれてもお答えできないほどの素人です。型紙とサンプルを見てご判断いただけますか?」
専門知識のない私の話に耳を傾け、型紙やサンプル品を見つつ唸る専務。
「このロックは2本?4本?はと目は別枠の処理になるけど、あれ?このゴムは6コールでいいの?ここは芯だよねえ。」
さっぱりわからない。

「あのー・・・専門用語はちんぷんかんぷんなので、ご説明いただけますか?」
「あ、そう。あのね、ここがこうでああでそーなのよ、云々。」
とても丁寧に教えてくれるクマ専務だ。

「そーだ、専務さん。型紙はかなりぼろくなっているのですけど、キャドで全部持っているので、それをこちらにデータで送ればいいでしょうか?」
「・・・なんだって?キャドってなんだ?」
「えっ?あっ、そっ、そーですか。じゃあ、型紙にして持ってきます。連絡はメールがいいでしょうか?指示書とまではいかない、メモ書きみたいなものを貼り付けで送ります。」
「・・・ファックスじゃダメ?うちパソコンなんて無いし、唯一あいつだけしかやってないし・・・やってるって程でもないしさ。」
 
いたいた、これこそ職人の家。前近代的に、30そこそこの息子までも文明の利器からかけ離れた生活を送っている。

 ボタンの穴を開ける職人
スナップボタンを取り付けていく職人
ストッパー等の部品取扱い会社
 
ご挨拶がてらの訪問にも皆さんご親切で、下町って本当に素敵と思わせる温かさに溢れていた。自分たちの仕事への自負心はすごく、説得力がある。そのパワーとこだわりには圧倒されるものがあったが、惜しむらくはその発信力の無さだ。対外的なサイトを持たないから、足で探さなきゃ見つからない。こんなメイドインジャパンが下町にはゴロゴロしてるって、工業組合に行って初めて知った夏だった。
 
そしてまた、DINGOの再スタートを飾る新しい型を発表することになった。犬好きなパターンナーを探していたところ紹介された、高井氏によるサルーキ型である。サルーキと言っても色々な犬種に対応すると思うので、ぜひ試着していただきたい力作だ。(2014年秋冬バージョンから登場予定)